まわる、まわる。
静かな回転と重なるリズム。
海がうねる、山がうねる。
植物が身体をうねらせて大きくなる。
赤ん坊も頭を左右に回転させながら産まれてくる。
おんなじように、糸も回転を加えて糸になる。
紡ぎ車を押す足は、波のような一定のリズム。
紡ぎ車を回し始めた頃、
その回転の中に様々な出来事が結びついたことを思い出す。
その後、ギリシャ神話のモイラという女神の話を知った。
三人で一組のモイラは、人々の生命の糸を紡ぎ、計り、断ち切り、
その人の寿命を決める役目があった。
彼女たちが定めた糸の長さは簡単には変えることができず、
神々の王ゼウスでさえも難しいことだったとされている。
そのことから紡ぎ車は、“運命の輪”のシンボルとなったといわれている。
私が糸紡ぎに感じていた生命のうねりは、
私が思うよりずっと昔から深く繋がりのあることだった。
さて、人々は古くから紡いだ糸を用いて、織り、編み、刺繍など、
様々な文化の中でそのひと目に願いを込めた。
多くは大切な人の無事を祈願するものであり、魔除け的なもの。
一定に針を進める作業はある境地を超えると無心になる。
糸の小さなうねりに呼吸を合わせると、自然とリズムが整ってゆく。
でもそれは、自分の運命と、紡がれた糸の運命を交わらせることで、
変えることのできないはずの危険を回避させたり、
行くべき道にガイドを示すような役割があったようにも思う。
私は小さい頃から針と糸を手にしていた。
その模様に込められた意味を知らなくても、
ひと目ひと目を刺してゆくことが、ただただ楽しく続けてこれたのは、
無意識のところでそのことを感じとっていたからかもしれない。
両親が名付けてくれた私の名前には惑星という意味があるが、
今になって、幼い時から身近にある糸と、日々回転する星々の繋がりを強く感じている。
その時その時の糸を、必要な形で届けられたらと思っています。
草曜舎 松尾曜子
松尾曜子 Yoko Matsuo
1984年生まれ
小学校に入る頃に手芸を始める。
最初に縫ったものはフェルトにボタンを縫い付けること。
冬になると編み物に夢中になった。
女子美術大学を卒業後、アパレル会社に入社。
退職後、埼玉県飯能市に移住。
独学で勉強していた占星術が、越してきたことによって
占星術と植物の繋がりを実感として感じるようになり
植物染めに興味を抱くようになる。
それと同時に、糸紡ぎを始める。
2018年9月、植物で染めた手紡ぎの糸、草曜舎を立ち上げる。